紫檀と黒檀の違い|家具で選ぶならどちら
濃い色をした、持ち上げようとすると驚くほど重い和の家具。実家の座卓、譲り受けた箪笥、店先で見かけた文机——あれは紫檀(したん)なのか、黒檀(こくたん)なのか。多くの方が、この二つを区別できないまま「唐木(からき)」とひとまとめに呼んでいます。
けれど紫檀と黒檀は、同じ木の色違いではありません。科も属も違う、まったくの別種です。この記事では、色・木目・重さ・手触り・経年変化・入手のしやすさを一つずつ並べて比べ、最後に「家具として選ぶならどちらか」という問いに答えます。読み終えるころには、写真を見ただけで見当がつくようになるはずです。

紫檀と黒檀は、そもそも「別の木」である
比較の前に、ひとつ前提を崩しておきます。紫檀と黒檀は、色の濃い木という共通点でくくられがちですが、植物としては近縁ですらありません。
紫檀はマメ科、黒檀はカキノキ科
紫檀はマメ科ダルベルギア属(*Dalbergia*)の木です。マメ科というのは、大豆や藤と同じ科。世界の木材市場ではこの属の銘木がまとめて「ローズウッド」と呼ばれ、日本では *Dalbergia latifolia*(インディアンローズウッド)や *Dalbergia cochinchinensis*(シャムローズウッド)などが紫檀として流通してきました。
一方の黒檀はカキノキ科ディオスピロス属(*Diospyros*)。柿と同じ科です。*Diospyros ebenum*、*Diospyros celebica*(縞黒檀)、*Diospyros crassiflora*(アフリカ黒檀)などが黒檀材として使われます。
科が違うということは、リンゴとブドウほど遠い関係だということです。見た目が似た方向にあるのは、どちらも熱帯で長い年月をかけて育ち、心材に色素と成分を溜め込んだ結果であって、血縁ではありません。
「唐木」という言葉が、二つを近く見せている
それでも紫檀と黒檀が親戚のように語られてきたのは、日本語に「唐木」という便利な言葉があったからです。唐木は特定の樹種を指す名前ではなく、熱帯地方から日本に入ってきた重く硬い木材の総称。紫檀・黒檀・鉄刀木(たがやさん)は、そのなかで「唐木三大銘木」と呼ばれてきました。
この呼び名にはいくつかの説があり、「世界三大銘木」と呼ばれる別の枠組みと混同されることも少なくありません。その整理については世界三大銘木とはで詳しく扱っています。唐木という言葉そのものの成り立ちや、唐木の家具がどういうカテゴリなのかについては唐木家具とはをご覧ください。
ここで押さえておきたいのは一点だけです。「唐木」は二つを束ねる言葉であって、二つが同じものだという意味ではない。
代表的な材の名前を三つだけ
比較を読み進めるうえで、次の三語だけ頭に入れておくと理解が早くなります。
– 本紫檀(ほんしたん) — 紫檀のなかでも上等とされる材の呼称。赤褐色から紫褐色の深い色を持ちます。
– 縞黒檀(しまこくたん) — 黒地に縞模様が走る黒檀。日本で「黒檀」として流通するものの多くはこちらです。
– 真黒(まぐろ) — 縞がほとんど入らない、無地に近い黒の黒檀。黒檀のなかでも密度が高く、最も黒い材として扱われます。
紫檀という素材そのものについて、種類・色・希少性をもっと深く知りたい方は紫檀とはをご覧ください。この記事では、あくまで黒檀との比較に絞ります。
一覧でわかる紫檀と黒檀の違い

まず全体像です。以下の表は、この記事で扱う項目をすべて並べたものです。
| 項目 | 紫檀 | 黒檀 |
|---|---|---|
| 科・属 | マメ科 ダルベルギア属 | カキノキ科 ディオスピロス属 |
| 代表的な材 | 本紫檀ほか | 縞黒檀、真黒(マグロ) |
| 心材の色 | 赤褐色〜紫褐色 | 黒色〜黒褐色 |
| 辺材の色 | 淡黄白色〜灰白色 | 白〜灰白色 |
| 木目・導管 | 縞や杢が出やすく、導管も見て取れる | 目が細かく均質。導管は肉眼で見えにくい |
| 気乾比重 | おおよそ0.79〜1.09(樹種による幅が大きい) | おおよそ1.00〜1.20超 |
| 硬さ(ヤンカ硬度) | 約2,440 lbf 前後 | 3,000 lbf を超えるものが多い |
| 主な産地 | インド、インドネシア、スリランカ、インドシナ半島 | アフリカ熱帯域、南アジア、東南アジア、マダガスカル |
| 油分と手触り | 成分が多く、しっとりと滑らか | 密度による緻密な滑らかさ。磨くとガラスのよう |
| 経年変化の方向 | 赤みが沈み、紫褐色から黒紫褐色へ | 黒が締まる。縞黒檀は縞が目立たなくなる |
| 加工のしやすさ | 硬いが黒檀よりは扱える。逆目が起きやすい | 刃物を鈍らせ、割れやすく、接着も効きにくい |
| 大きな板の取りやすさ | 黒檀よりは取れる | 最も取りにくい |
| 主な用途 | 卓、箪笥、机、椅子などの家具 | 楽器の指板・黒鍵、箸、印鑑などの小部材 |
表だけでは伝わらないこと
この表を眺めれば、違いのおおよそは掴めます。ただ、家具を選ぶときに効いてくるのは、表の数字そのものではありません。
たとえば「黒檀のほうが硬い」という一行は、木を触る人間にとっては「黒檀は刃物を鈍らせ、釘が打てず、接着も効きにくい」という意味を持ちます。「紫檀は大きな板が取れる」という一行は、「だから日本の唐木家具は紫檀が主役になった」という結論に直結します。
以下、一つずつ見ていきます。
色と木目 ― 目で見てわかる違い
見分けるうえで最も手がかりになるのは、やはり色と木目です。
紫檀の色は、赤から紫へ流れる
紫檀の心材は赤褐色から紫褐色。新しい材ほど赤みが強く、光の当たり方によって紫がかって見えます。「紫の檀(まゆみ)」という字が当てられたのは、この色によるものです。
紫檀を紫檀たらしめているのは、色そのものよりも木目が「表情」として現れることでしょう。木理は通直なものから交錯したものまであり、縞や杢が浮かぶことも珍しくありません。天板のような広い面で使ったとき、その面が単調にならず、見る角度と時間帯で違う顔を見せる——これが紫檀の家具の魅力の核心です。

黒檀の色は、黒であることに徹している
黒檀の心材は黒色から黒褐色。特徴的なのは色の濃さよりも、導管が肉眼ではほとんど見えないほど組織が緻密だという点です。木でありながら木目を主張しない。石や漆器に近い、均質な黒い面として立ち上がります。
紫檀が「木目を見せる木」なら、黒檀は「木目を消す木」。この性格の違いが、後述する用途の分かれ方に直結していきます。
縞黒檀と真黒 ― 黒檀のなかの二つの顔
黒檀のなかでも、黒地に明瞭な縞が走るものを縞黒檀、縞がほとんど入らない無地に近いものを真黒(マグロ)と呼び分けます。
縞黒檀は縞そのものが意匠になり、面で使ったときに動きが出ます。真黒はさらに密度が高く、黒檀のなかでも重厚な材として扱われてきました。日本で「黒檀」として目にするものの多くは縞黒檀です。
使われているのは、丸太のごく一部でしかない
もうひとつ、色を語るうえで欠かせない話があります。
紫檀も黒檀も、私たちが「紫檀の色」「黒檀の色」と呼んでいるのは、丸太の中心部にある心材の色です。その外側を取り巻く辺材は、紫檀なら淡黄白色から灰白色、黒檀なら白から灰白色で、いずれも心材とはまるで違う色をしています。
家具に使えるのは、原則としてこの心材の部分だけ。つまり一本の丸太から取れる「紫檀」「黒檀」は、木の太さがそのまま材の量になるわけではありません。外側を落とし、割れや節を避け、色と木目の揃った部分だけを選び出す——この作業を木取りと言います。
心材と辺材の色差がこれほどはっきりしているということは、逆に言えば、木取りの上手下手が仕上がりに直接出るということでもあります。天板の色が端から端まで揃っている紫檀のテーブルは、それだけ大きな心材から取られたか、丁寧に選ばれたかのどちらかです。
写真で見分けるときのチェックポイント
実物を触れないとき、写真から判断する手がかりは三つあります。
1. 導管が見えるかどうか。 表面に細かな筋や孔が読み取れるなら紫檀の可能性が高く、面がのっぺりと均質なら黒檀寄りです。
2. 辺材との色の差。 どちらも心材と辺材の色差ははっきり出ますが、紫檀は赤褐色と淡黄白色、黒檀は黒と白という、コントラストの質が違います。
3. 縞の走り方。 黒地に規則的な縞が走っていれば縞黒檀を疑います。紫檀の縞はもっと不規則で、色の階調として現れます。
ただし、写真での判断には限界があります。染色を施した材や、薄い突板を貼った家具では、表面を見ただけでは判断がつきません。本物かどうかの確かめ方については紫檀家具の手入れと真贋の見分け方で扱っています。
重さと硬さ ― どちらがより「沈む」のか
唐木の話には必ず「水に沈むほど重い木」という表現が出てきます。これは正確にはどういうことなのでしょうか。
気乾比重で比べる
木材の重さの目安が気乾比重です。水の比重を1.0としたとき、それより大きければ理屈のうえでは水に沈み、小さければ浮きます。
黒檀の気乾比重は、おおよそ1.00から1.20を超える範囲。 縞黒檀で0.90〜1.10前後、真黒になるとさらに高くなります。黒檀が「木なのに沈む」と言われてきたのは、この数値によるものです。
一方紫檀は、樹種によって幅がかなり大きいのが実情です。資料によっておよそ0.79から1.09までの数字が並び、同じ「紫檀」の名で呼ばれていても、水に沈むものもあれば浮くものもあります。
つまり「紫檀も黒檀も水に沈む」という言い方は、黒檀についてはおおむね当たっていても、紫檀については一律には言えません。どちらがより沈むか、という比較で言えば、答えははっきり黒檀です。
なお、水に浮くかどうかで本物か偽物かを確かめようとするのは避けてください。仕上げや塗装、空洞の有無で結果は簡単に変わりますし、家具を水に浸すこと自体が傷める行為です。試さないことをお勧めします。
硬さで比べる
硬さの指標であるヤンカ硬度で見ると、本紫檀が約2,440 lbf 前後であるのに対し、黒檀は3,000 lbf を超えるものが多くなります。
ここで注意したいのは、紫檀は「柔らかい木」ではないということです。インターネット上の解説には「紫檀は比較的軽く加工しやすい」と書かれたものも見かけますが、これは黒檀と並べたときの相対的な話。一般的な家具材と比べれば、紫檀は十分に重硬な木です。
黒檀のほうは、その硬さと耐久性から「木のダイヤモンド」と呼ばれることがあります。心材が硬質かつ緻密で、水に沈むほど密度が高い——この異名は、黒檀という材の性格をよく言い表しています。
硬いことは、つくる側にとって何を意味するか
数字よりも、現場での意味のほうが本質的です。
木工の実務では、黒檀は鋸や刃先をすぐに鈍らせる材として知られています。切削の抵抗が強く、彫刻のような繊細な仕事では難度が跳ね上がります。さらに黒檀は油脂分を含むため、接着剤が効きにくい。そして脆さもあり、割れやすいので釘を打つこともできません。
紫檀も決して易しい材ではなく、削るときに逆目が起きやすいと言われます。それでも黒檀に比べれば、まだ扱いに幅があります。
乾燥の工程も同じ方向に効いてきます。唐木は最低でも一年の自然乾燥を経て、さらに乾燥を重ねてから加工に入るのが実務の常道です。黒檀は密度が高いぶん内部の含水のむらが抜けにくく、乾燥不良に対して最も不寛容な材でもあります。
西村貿易が扱う紫檀長方形食卓も、長い乾燥の工程を経て、丹念に木取りされた紫檀を用いています。硬い木を家具にするという仕事は、切る前の年月から始まっているのです。
その手間が値段にどう反映されるのかについては、唐木家具の値段は何で決まるのかで扱っています。
手触りと経年変化 ― 触れたときと、二十年後

ここからが、実物を扱う者にしか書けない領域です。表の数字には現れませんが、家具として選ぶうえでは最も大きな差かもしれません。
紫檀はしっとり、黒檀はガラスのよう
紫檀には木材の抽出成分が多く含まれており、磨き上げると、しっとりと吸いつくような滑らかさが出ます。手のひらを置いたときに、わずかに温度を感じる質感です。
黒檀の滑らかさは、質が違います。油っぽさというより、超高密度ゆえの緻密さ。磨くとガラスや石に近い、冷たく張りつめた手触りになります。
どちらが優れているという話ではありません。座って肘を置く机、毎日手を触れる椅子の肘掛けを考えたとき、紫檀のしっとりした感触が「使う家具」に向いていることは確かです。そして黒檀の張りつめた滑らかさは、指で押さえる楽器の指板に選ばれてきた理由でもあります。
西村貿易の商品説明にある「磨き上げられることで、美しい木目や光沢、色、質感、滑らかな手触りが魅力の家具となる」という一節は、まさにこの部分を指しています。
紫檀の色は、深まるというより「沈む」
紫檀の経年変化は、方向がはっきりしています。
新しい材のときは赤紅色から紅紫色。それが年月をかけて紫褐色へ、さらに黒紫褐色へと沈んでいきます。光と酸化によって木材のなかの成分が変化していく現象で、止めることはできません。
これは劣化ではなく、紫檀の見どころです。何十年も使われた紫檀の家具は、赤みがすっかり落ち着いて濃い褐色になり、角や手のよく触れる部分に艶が乗ります。全体としては、深く温かい色の塊のように見えてきます。
黒檀の黒は「締まる」。そして縞は溶けていく
黒檀は、もともと黒いので色が大きく動くことはありません。長く使ううちに表面が落ち着き、黒がより深く、より滑らかに見えるようになる——変化の方向は「締まる」です。
ただしひとつ、意外なことが起こります。縞黒檀は、経年で縞のコントラストが弱まっていくのです。買ったときにはっきり読み取れた縞模様が、年を追うごとに主張を弱め、全体が落ち着いたダークブラウンから黒の一体感に近づいていきます。
つまり、買った日と二十年後で見た目が最も変わるのは、実は黒檀の側ということになります。紫檀は色が沈み、黒檀は模様が溶ける。二つの木は、時間の受け止め方までまるで違うのです。
二十年後にどちらの表情を見ていたいか
家具を選ぶという行為は、たいてい「今どちらが好きか」で決められます。けれど紫檀と黒檀の場合、それだけでは足りません。
紫檀を選ぶということは、赤みが年々沈んでいく過程を見届けるということ。黒檀を選ぶということは、買ったときの縞が少しずつ溶けていくのを受け入れるということ。どちらを選ぶかは、二十年後にどちらの表情を見ていたいか、という問いでもあります。
なお、日常の拭き方やオイル・ワックスの可否といった具体的な手入れの方法については、紫檀家具の手入れにまとめています。
産地と入手性 ― なぜ今、同じようには手に入らないのか

ここは、他ではあまり書かれていない話です。紫檀と黒檀は、現在の手に入りにくさの「理由」がまったく違います。
産地の違い
紫檀(ダルベルギア属)は、インド、インドネシア、スリランカといった南アジア圏と、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムなどのインドシナ半島が主な産地です。
黒檀(ディオスピロス属)は、アフリカ熱帯域、南アジア、東南アジア、そしてマダガスカルと、より広い範囲に分布しています。
規制のかかり方が、二つでまったく違う
ここが決定的な差です。
ワシントン条約(CITES)は2017年、ダルベルギア属を属ごとまとめて附属書IIに掲載しました。特定の樹種を選んで規制したのではなく、属全体を一括りにしたのです。理由は明快で、見た目や流通名だけでは樹種の判別が難しく、違法に伐採された材が別の名前で抜けていく余地を塞ぐ必要があったからです。
つまり紫檀は、「紫檀と呼ばれるものは基本的にすべて規制の対象」という状態にあります。
一方、黒檀のディオスピロス属で附属書IIに載っているのは、マダガスカル産の個体群のみです。黒檀は「産地によって扱いが違う木」であり、属全体が一律に規制されているわけではありません。
この非対称は、家具を探す側から見ると次のような形で現れます。紫檀は「名前が紫檀なら証明が要る」木であり、黒檀は「どこの黒檀かによる」木である。同じ「入手が難しい銘木」でも、難しさの中身が違うのです。
条約の枠組みそのものや、紫檀がなぜここまで希少になったのかという経緯は、紫檀とはで詳しく扱っています。
黒檀の入手しにくさは、条約とは別の理由から来ている
紫檀の希少さが条約によって説明できるのに対し、黒檀の入手しにくさは、もっと素朴な理由に根ざしています。成長が遅く、良材の取れる率が低いのです。
このことが最もはっきり表れているのが、楽器の世界でした。黒檀は指板材として長く標準の座にありましたが、近年は資源の制約が真剣に議論されるようになり、供給を背景にギター工房が調達のあり方を見直す事例も出てきています。「高級指板材としての需要が、かえって保全とトレーサビリティの議論を促した」という、皮肉な巡り合わせです。
つまり紫檀と黒檀は、同じ「手に入りにくい銘木」でありながら、手に入りにくさの理由が違う。紫檀は制度によって、黒檀は木そのものの育ち方によって、それぞれ細っていきました。
いま流通しているものの正体
結果として、現在市場にある紫檀材・黒檀材は、規制以前から国内にある在庫材、書類の揃った合法伐採材、そして薄く挽いた突板や練り材が中心になっています。無垢の一枚板を潤沢に選べる時代ではありません。
西村貿易の商品ページにも「現在多くの唐木がワシントン条約により商取引が大変厳しく難しい状況となっております」と記していますが、これは業界全体に共通する現実です。
用途が分かれた理由 ― 黒檀は楽器と箸へ、紫檀は家具へ
紫檀と黒檀は、行き着いた場所が違います。黒檀はバイオリンやギターの指板、ピアノの黒鍵、三味線の棹、箸、印鑑へ。紫檀は卓、箪笥、机へ。
これは好みの問題ではなく、物性からくる必然でした。
黒檀が「こすられる部品」に選ばれた理由
バイオリンの指板を思い浮かべてください。フレットがないため、演奏者は弦を直接指板に押しつけます。柔らかい木ならすぐに溝ができてしまう場所です。ピアノの黒鍵も条件は同じ。繰り返しこすられ、それでも形を保たなければならない部位です。
黒檀の圧倒的な硬さと密度は、まさにここで効きます。加えて磨いたときに滑りのよい表面になること、そして黒という色が楽器の意匠として定着していたこと。条件が全部そろっていました。
もうひとつ、細い部材だからこそ効く性質があります。寸法の安定性です。指板や三味線の棹のような細長い部材は、わずかに反ったりねじれたりするだけで用をなさなくなります。高密度で収縮の小さい黒檀は、この精密さが求められる部位に向いていました。逆に言えば、黒檀が細い部材ばかりに使われてきたのは、そこでしか使えなかったからではなく、そこで最も力を発揮したからでもあります。
同じ理由で、箸と印鑑にも黒檀は選ばれてきました。箸は細く長く、手のなかで繰り返しこすれる道具。印鑑は彫りの細かさと、長年使っても欠けない強さが求められます。どちらも「小さいのに、高い耐久性が要る」という条件で、黒檀の性質と正確に噛み合っています。
紫檀が「見せる面」に選ばれた理由
家具は逆です。天板も扉も、指でこすり続ける場所ではありません。家具に求められるのは面としての美しさであり、そこで紫檀の赤褐色と、面に現れる木目の表情が生きます。
紫檀も家具に必要な硬さと重さは十分に備えています。日常の荷重や衝撃に耐えつつ、広い面が単調にならない。この両立ができる木は、それほど多くありません。
決め手は「大きな板が取れるかどうか」
そしてもうひとつ、あまり語られない要因があります。木取りです。
黒檀は成長が遅く、良材の取れる率が低い木として知られています。大きく清浄な板を得るのが難しく、どうしても小さな部材に用途が限られていきました。指板、黒鍵、棹、箸、印鑑——すべて小さいのは偶然ではありません。
紫檀のほうが大きな板を取りやすかった。だからこそ、卓や箪笥や机になれた。日本の唐木家具で紫檀が主役を務めてきた背景には、こうした現実的な事情があります。
材の難しさが、技法を決めた
ここでもう一度、加工の話に戻ります。黒檀は割れやすいため釘が打てず、油分のせいで接着も効きにくい材でした。では、どうやって組むのか。
答えは、釘にも接着にも頼らず、木と木を噛み合わせること——ホゾ組みです。西村貿易が扱う唐木家具も「銘木を職人の技で釘を1本も使用せずホゾで組み上げ、拭き漆にて仕上げます」と説明していますが、これは装飾的なこだわりではなく、材の性質から導かれた必然の技法です。硬い木を家具にしようとした人々が、材の難しさに押し出される形でたどり着いた方法でした。この技法と唐木家具の系譜については唐木家具とはをご覧ください。
家具として、どちらを選ぶか
ここまでの違いを踏まえて、最後の問いに答えます。
空間から選ぶ

紫檀は、面で使っても空間を重くしません。 赤褐色から紫褐色という色は、オークやメープルのような明るい床材と色の階調でつながります。大きな天板でも、そこだけが黒く沈むということが起きにくい。
黒檀は、小さく効かせるための色です。面積が増えるほど空間を締めていくため、洋室のリビングに黒檀の大きな家具を持ち込むと、想像以上に重心が下がります。
既存の家具から選ぶ
すでにある家具と合わせるとき、色相を揃えようとすると失敗しがちです。紫檀も黒檀も彩度が低く明度も低い帯にあるため、合わせるべきは色ではなく「深さ」。手持ちの家具の明度に対して、どのくらいの深さを足したいのかを考えるほうが、結果としてまとまります。
大きな面で使うなら紫檀、点で効かせるなら黒檀
用途が分かれた歴史は、そのまま現代の選び方に使えます。テーブル、机、箪笥のように面で見せる家具なら紫檀。小さなアクセントとして黒の締まりが欲しいなら黒檀。木そのものが選ばれ続けてきた理由には、それなりの根拠があります。
現実的な選択肢の差
そしてもうひとつ、身も蓋もない話をすると——家具という形で選べるものが市場にあるかどうか、という差があります。黒檀は大きな板が取りにくく、いまも入手は容易ではありません。家具として実際に選べる選択肢は、紫檀のほうが広いのが実情です。
職人の仕事から選ぶ
素材が同じでも、仕上がりは仕事の質で変わります。
西村貿易が扱う紫檀の家具は、釘を一本も使わずホゾで組み上げ、拭き漆で仕上げたものです。拭き漆は厚い塗膜で覆う仕上げではなく、木地に漆をすり込んで拭き上げる方法で、木目と手触りを殺さずに艶を与えます。磨き上げられることで木目、光沢、色、質感、そして滑らかな手触りが立ち上がる——素材の良し悪しだけでは、この状態には届きません。
中古ではなく、いまつくられた紫檀家具という選択

紫檀の家具を探すと、たいてい行き着く先は骨董店やオークション、個人売買です。状態の分からないもの、誰がつくったのか分からないものが並びます。
西村貿易の紫檀の家具は、ロンドン エクスプローラーズ コレクション——長年高級家具専門商社として培ってきた美意識を結集し、西村貿易が独自に企画したオリジナルコレクション——の新作です。中古でもアンティークでもありません。状態が分かり、届いたあとの修理やメンテナンスの相談先がはっきりしている。この違いは、長く使う家具ほど効いてきます。
新作を選ぶことの意味については、アンティークではない紫檀家具という選択で詳しく書いています。
おすすめ商品

紫檀文机【K010】
W95×D44.5×H35cm。座って使う文机ですが、高さを活かしてモダンなソファのカクテルテーブルとして取り入れることもできます。紫檀の木目が広い天板に静かに現れる一台。在庫1点の一点物です。

紫檀長方形食卓【K018】
W152×D91×H73cm。長い乾燥の工程を経て丹念に木取りされた紫檀を、伝統技法のホゾで組み上げ、拭き漆で仕上げたダイニングテーブル。紫檀を最も大きな面で味わえる一台です。
よくある質問
Q1. 紫檀と黒檀どちらが高いですか?
Q2. 黒檀と紫檀の違いは何ですか?
Q3. 紫檀は高級木材ですか?
Q4. 黒檀と紫檀の位牌の違いは何ですか?
Q5. 紫檀と黒檀、水に沈むのはどちらですか?
Q6. 写真だけで紫檀と黒檀を見分けられますか?
Q7. 縞黒檀と真黒(マグロ)はどう違いますか?
Q8. 紫檀の家具は日焼けして色が変わりますか?
Q9. 「紫檀調」「黒檀調」と書かれた家具は本物の紫檀・黒檀ですか?
Q10. 紫檀の家具は、いま新品で買えますか?
まとめ
紫檀と黒檀は「唐木」という言葉でひとくくりにされてきましたが、科も属も違う別の木であり、色も重さも手触りも、時間とともに変わっていく方向すら異なります。家具として選ぶなら、面で見せる大きな家具には紫檀、点で締める小さなアクセントには黒檀——というのが、材の性質からの答えです。木目の表情や手触りは写真では伝わりきりませんので、ぜひ実物に触れてお確かめください。
時を超える美との出会い
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西村貿易株式会社 白金台ショールーム
〒108-0071 東京都港区白金台3-2-10 白金台ビル1F
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