モダンインテリアの作り方|上質な空間に整える基本
一つひとつの家具は気に入って選んだはずなのに、部屋全体を見渡すと、どこか雑然として見える。写真で見た空間のような、あの静かな佇まいにならない——そうお感じになったことはないでしょうか。
その差は、多くの場合、好みやセンスの問題ではありません。モダンインテリアが成立するかどうかは、線の量・余白の取り方・素材の質という三つの要素で、ほぼ決まります。
この記事では、モダンインテリアという考え方の成り立ちから、五つの方向性、そして「空間に一点の本物を効かせる」という選び方まで、輸入家具を半世紀にわたって扱ってきた専門店の視点でご紹介します。
モダンインテリアが目指すもの
モダンインテリアと聞くと、「今風の」「最新の」という語感を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれども、この言葉が指しているのは流行ではなく、一世紀以上前に確立した設計思想です。
十九世紀末から二十世紀初頭にかけて、産業革命と都市化が社会を変えていく中で、それまでの「装飾を重ねることで格を示す」という価値観に、真っ向から異を唱える動きが生まれました。装飾を削ぎ落としたところに、素材と構造そのものの美しさが残る——その考えを教育の形にまで高めたのが、一九一九年から一九三三年までドイツに存在したバウハウスです。戦後のアメリカでは、この思想がミッドセンチュリーモダンとして、より生活に近い形へと展開していきました。
つまりモダンインテリアとは、百年をかけて磨かれてきた「引き算の作法」のことです。ここに気づくと、一つの疑問が消えます。流行が過ぎれば古びるのではないかという不安です。百年もったものが、この先の数年で古びる道理はありません。
線を減らすということ
空間が雑然として見える最大の原因は、物の数ではなく、目に入る線の本数です。
家具の輪郭、脚の形、framework の継ぎ目、引き出しの取っ手、そして配線。これらはすべて視線が引っかかる点として働きます。曲線が多い家具、脚が四本とも太い家具、取っ手が突き出た家具は、それだけで線を増やします。逆に、脚が細く床との接点が少ない家具や、取っ手が面と一体になった家具は、同じ大きさでも空間を軽く見せます。
家具を減らさなくても、線の本数を減らせば空間は整います。この引き算をどこまで、どのように進めるかは、シンプルモダンインテリアで詳しくご紹介しています。
余白は「空き」ではなく設計
余白とは、物を置かなかった場所のことではありません。視線が抜けるように、意図して残した場所のことです。
壁面の上半分、家具と家具の間、家具の脚元に見える床。この三つのうちどれか一つでも抜けていれば、空間は呼吸をはじめます。逆に、余白がまったくない部屋では、どれほど質の高い家具を置いても、その一点が埋もれてしまいます。
そして余白には、代償があります。余白が多いほど、そこに置いた一点の質が問われるということです。何もない壁の前に置かれた家具は、隠れる場所がありません。この緊張感こそが、モダンインテリアの難しさであり、面白さでもあります。
単調さを消すのは、色ではなく質感
線を減らし、色を絞っていくと、多くの方が次の壁に突き当たります。整いはしたが、冷たく、単調に見えるという壁です。
ここで色数を増やしてしまうと、せっかく減らした線が意味を失います。単調さを消すのは色ではなく、質感の差です。マットな面と光沢のある面、織りの粗い布と滑らかな革、木目の流れと石の斑。同じ白でも、漆喰の白と磁器の白では、光の返し方がまったく違います。
この質感の差をどこまで細やかに設計できるかが、空間の格を決めます。次の章でご紹介する手仕事の技法は、まさにこの領域の話です。
モダンとシックは、対立しない
「モダンとシックはどう違うのか」という問いをよく耳にします。答えを先に申し上げると、この二つは比べる対象ではありません。
モダンは、直線的で機能的という形の思想を指す言葉です。対してシックは、控えめで落ち着いた雰囲気のトーンを指します。次元が違うため、「モダンだけどシック」という状態は矛盾なく成立します。むしろ、モダンの骨格にシックのトーンを重ねた空間こそ、大人の住まいとして最も扱いやすい組み合わせです。
モダンインテリアの五つの方向性
ひとくちにモダンといっても、目指す先はひとつではありません。ここでは、日本の住まいで実際に成立させやすい五つの方向性をご紹介します。どれが正しいということはなく、ご自身の暮らしに近いものを一つ選び、そこへ寄せていくのが近道です。
シンプルモダン — 引き算という設計思想
物を減らし、線を減らし、選び抜いた少数で空間を成立させる方向です。「何もない」ことが目的ではなく、残すものを選び抜いた結果として何もなくなるという順序が肝心になります。
収納をどう隠すか、どの線から削っていくかという具体的な進め方は、シンプルモダンインテリア|引き算で作る余白の美にまとめています。
モノトーン — 色を絞り、質感で語る
白・黒・グレーだけで空間を成立させる方向です。色数を絞るぶん、前章で触れた質感の設計がそのまま空間の質になります。木や真鍮をどこまで足してよいのか、黒をどこに置くと効くのか——色の配分そのものが主題になる方向です。
配色の比率設計と質感の組み立ては、モノトーンインテリア|白黒グレーの配色と質感でご紹介しています。
モダンクラシック — 一点で品格を効かせる
現代的な骨格の空間に、クラシックの意匠を一点だけ持ち込む方向です。全体をクラシックにするのではなく、あくまで器は現代のままという点が、いわゆるクラシックスタイルとの決定的な違いになります。
ここで一つ、意外に思われるかもしれない事実をお伝えします。当社が取り扱う家具のスタイル分類には、クラシックスタイルと並んで Transitional Style(トランジショナル=移行期の様式) という区分があり、実際に八十点以上が該当します。クラシックとモダンの中間に位置づけられる家具は、想像以上に選択肢があるのです。
どのアイテムを、どの比率で混ぜると成立するのか。その配合の考え方は、モダンクラシックインテリア|1点で品格を効かせるで詳しくお伝えしています。
海外の潮流 — 英国とアメリカの現代性
海外の空間写真に惹かれて家具を選んだのに、自宅に置くと浮いてしまう。この原因は好みではなく、天井高・床材・光の質という条件の違いにあります。
英国のキャビネットメイキングの伝統、ニューヨークの現代性、南カリフォルニアの自然光。それぞれの出自を持つ家具を日本の住まいで成立させる条件は、海外インテリアを日本の住まいで|国別スタイルの基本にまとめています。
デザイナーズ — 誰が作ったかで選ぶ
家具を、形やカテゴリではなく作り手で選ぶという方向です。レスリー&レイ・キーノ兄弟、ジェイミー・ドレイク、マイケル・バーマン、スティーブン・チャーチ——いずれも現在進行形で作品を発表しているデザイナーたちです。
過去の名作を復刻したものではなく、いま作られているものを選ぶ。その視点については、デザイナーズ家具の選び方|現役デザイナーの名品でご紹介しています。
なお、モダン以外のスタイルも含めて全体像を見渡したい方は、インテリアテイストの種類と理想の空間づくりもあわせてご覧ください。
空間別に考える
方向性が決まったら、次は空間ごとの落とし込みです。ここでは入口だけをご案内します。
リビングを決めるのは、家具の数ではなく間隔
リビングがまとまらない理由の多くは、家具が多いことではなく、家具と家具の間隔が揃っていないことにあります。ソファ、センターテーブル、サイドテーブル、照明、ラグ——構成要素は限られているのに、置き方ひとつで印象は大きく変わります。
レイアウトの型と動線、視線の高さの揃え方は、モダンリビングの作り方|家具配置と選び方の基本でご紹介しています。ホテルの一室のような静けさを目指す方には、ホテルライクなリビングの作り方も参考になります。
今ある部屋から始める
新しく揃えるのではなく、いまお住まいの部屋を整えていきたい。賃貸で、大きな変更はできない。そうした状況からでも、進められることは少なくありません。
今ある部屋を順を追って整えていく手順は、モダンな部屋の作り方|今の部屋を整える5つの手順にまとめています。
空間に「一点の本物」を効かせるという考え方
ここまで、線を減らし、余白をつくり、質感で差をつけるというお話をしてきました。最後に残るのが、その余白の中心に何を置くかという問いです。
余白の多い空間では、置いたものが隠れません。言い換えれば、そこに置いた一点が、自動的にその空間の主役になります。だからこそ、数を揃えるより、一点の質を上げるほうが確実に効きます。ここからは、その「質」が実際にどうつくられているのかを、いくつかの手仕事を通してご覧いただきます。
手描きラッカー — 一筆ずつ描かれる奥行き
東洋の漆器に由来する技法を継承し、職人が一筆一筆丁寧に描き上げていくのが手描きラッカーです。塗料を吹き付けるのではなく、筆で層を重ねていくため、面のどこを見ても表情がわずかに違います。
この「わずかな違い」が、光の下で効きます。均質な塗装面は光を一様に返しますが、手で描かれた面は、角度によって返し方が変わる。直線的でそぎ落とされた現代の家具に、機械では決して表現できない温もりと奥行きが宿るのは、この不均質さのためです。モノトーンに寄せた空間ほど、この差は際立ちます。
象嵌細工 — 遠目には見えない仕事
象嵌細工は、異なる素材を精緻に嵌め込んでいく高度な伝統技法です。木材、金属、貝殻を組み合わせ、寸分の隙もなく面を揃えていく。複雑な文様を描くこの技術は、何世代にもわたって受け継がれてきた職人技の結晶です。
この技法の面白さは、部屋の入口からは、ほとんど見えないことにあります。遠目には落ち着いた無地の面にしか見えず、近づいてはじめて素材の境目が現れる。装飾でありながら、空間の静けさを一切壊しません。
余白の多いモダンな空間で、装飾的な家具が浮いてしまうのは、多くの場合その装飾が遠くから主張しすぎるためです。象嵌細工のように、近づいた人にだけ届く仕事であれば、静けさと密度は両立します。
真鍮 — 新しい空間に、時間の層を持ち込む
取手や脚部に用いられる真鍮のディテールは、熟練の職人が一点一点手作業で仕上げていきます。そして真鍮には、他の素材にはない性質があります。使い込むほどに色が沈み、深みを増していくのです。
これは、新しい住まいにとって大きな意味を持ちます。新築のマンションや、リノベーションを終えたばかりの部屋は、すべての素材が同じ日に生まれています。床も壁も家具も、揃って新品です。整ってはいるけれど、どこか薄い——そう感じられる理由の一つが、この「時間の層のなさ」にあります。
真鍮のディテールを持つ家具を一点置くと、その部分だけが、これから先ゆっくりと年を取っていきます。使い込むほどに深まるアンティークゴールドの輝きは、空間に時間の軸を一本通してくれます。
「本物を一点」と「予算」のあいだで
とはいえ、こうした手仕事の一点は、決して気軽に手が届くものではありません。本物を入れたいけれど、新品の価格には届かない——そう感じられる方は少なくないはずです。
そうした方に、もう一つの入口をご用意しています。西村貿易では、かつて当社がお客様のもとへお納めした家具を買い戻し、あらためてお届けする取り組みを行っています。どこから来た個体なのかが分かっていること、そして正規輸入代理店として、当社の職人が整備を終えてからお出しすること。この二点が、一般的な中古家具との違いです。価格も、新品と同じではありません。
一点だけ本物を、とお考えの方には、最も現実的な選択肢かもしれません。詳しくはヘリテージのご案内をご覧ください。
家具を選ぶときの指針
ブランドは「価格帯」ではなく「合う空間」で選ぶ
家具のブランドを比べるとき、つい価格帯で並べたくなりますが、実際に役立つのはどんな空間に合うかという軸です。同じ価格帯でも、光の強い空間で映えるブランドと、落ち着いた照度でこそ本領を発揮するブランドがあります。
空間から逆算してブランドを選ぶ考え方は、モダン家具ブランドの選び方|空間別の指針でご紹介しています。取扱ブランドの一覧はブランドページからもご覧いただけます。
ソファは、アームと脚で決まる
リビングで最も面積を占めるソファは、印象への影響も最大です。そして、そのモダンさを決めているのは、座面の広さでも色でもなく、アームの高さと脚の見え方です。
フォルムと張り地の選び方は、モダンソファの選び方|フォルムと素材で選ぶにまとめています。
最後は、実物で確かめる
線の細さも、質感の差も、写真では正確に伝わりません。とりわけ余白の中心に置く一点は、実際にご覧いただくことをおすすめします。
白金台のショールームでは、実物をご覧いただきながらのご相談を承っています。また、候補の家具をご自宅に設置してお確かめいただける家具フィッティングのサービスもご用意しています。
セオドア アレキサンダーについて
ここまでご紹介してきた手描きラッカー、象嵌細工、真鍮のディテール——こうした手仕事を、現代のフォルムに落とし込んでいるブランドがあります。
セオドア アレキサンダー(THEODORE ALEXANDER) は、一九九六年に設立されたファニチャーメーカーです。伝統に裏付けられた”ものづくり”への情熱と、時代を反映させたイノベイティブなデザインを併せ持つことを特徴とし、オルソープ、キーノブラザーズ、イングリッシュ キャビネットメーカーといった数多くのキーコレクションを擁しています。
このブランドがモダンな空間と相性が良いのは、装飾を「見せるための装飾」ではなく、素材と構造の延長として扱っているためです。直線的な骨格を保ちながら、面の仕上げに手仕事の密度を宿す——余白の中心に置く一点として、これ以上ないバランスといえます。
西村貿易は、一九七二年の創業以来、五十年以上にわたって高級輸入家具を日本にご紹介してきました。
なお、アクセントファニチャーという分野を早くから切り拓いてきた メートランドスミス(MAITLAND-SMITH) — 一九七九年にロンドンで創設されたブランドで、西村貿易は一九八八年より日本唯一の正規輸入代理店を務めています — にも、空間の一点を担うにふさわしい品々が揃っています。詳しくはメートランドスミスのブランドページをご覧ください。小ぶりなアクセントアイテムはオンラインストアからもご覧いただけます。
おすすめ商品
コンソールテーブル【M5305-187】
壁面に沿わせて置ける奥行きの浅いコンソール。床との接点が少なく、玄関やリビングの壁面に置いても空間を重くしません。上に何を置くかで表情が変わる、余白づくりの起点になる一台です。
よくある質問
Q1. モダンインテリアとはどんなインテリアですか?
Q2. ダサいインテリアの特徴は?
Q3. モダンとシックの違いは何ですか?
Q4. モダンデザインの例は?
Q5. 賃貸でもモダンインテリアにできますか?
Q6. モダンインテリアに木の家具を入れても大丈夫ですか?
Q7. 狭い部屋でもモダンインテリアは成立しますか?
Q8. モダンとクラシックの家具は混ぜてもよいのでしょうか?
Q9. モダンインテリアに合う照明はどう選べばよいですか?
Q10. 何から手をつければよいですか?
まとめ
モダンインテリアが成立するかどうかは、線の量・余白の取り方・素材の質という三つで決まります。すべてを買い替える必要はなく、余白をつくり、その中心に選び抜いた一点を置くことから始められます。
時を超える美との出会い
白金台のショールームでは、Maitland-Smith、Theodore Alexander、Althorp など、 クラシック家具の名門ブランドから厳選したアイテムを実際にご覧いただけます。
西村貿易株式会社 白金台ショールーム
〒108-0071 東京都港区白金台3-2-10 白金台ビル1F
営業時間: 10:00~18:00(月曜定休)
電話: 03-5793-3694


